井上 理津子著 「大阪 下町酒場列伝」読了。
まず、表紙のおっちゃんが、おそらくはチューハイであろう飲み物のグラスを手にして飲み干してる様がなんとも良い感じ…ではあるのだが、この本は、筆者が月刊「大阪人」で連載していた記事(この「大阪人」もまた興味深い雑誌ではある)を文庫本にしたもの。
大阪の「居酒屋」ではなく「酒場」は、また関東の居酒屋とはまた違った雰囲気があって、どの店にも行ってみたくなる。それも、観光客としてではなく、大阪に住み着いて通いたくなる、そんな「酒場」ばかりである。それも、どのお店にも開店にまつわるエピソードがあって、それぞれ人情味にあふれていて、単純に「酒場」がどうこうのはずが、立派なノンフィクションができてしまいそうな、濃厚なドラマが背景にあるのがまたおもしろい。
しかし、文庫本にするにあたって、掲載されている酒場が今どうなっているかを筆者が調べて回ったのだろうか。それぞれのお店の記事の末尾に「XXXX年閉店」のような形で追記がなされている。この筆者のマメさが活かされている記事は、酒場の細かいところまで観察されているがゆえに、私のようなアマチュアの酒場ファンの心を惹きつける。
しかし、その「現在」の記述は、いつか大阪の「酒場」に行ってみたいと思う、淡い願望を打ち砕くものが多かったのが残念。実際のところ、戦後から始めた酒場、それよりもずっと前に営業していた酒場でも、後継者問題は割りとシビアなようで、大将や女将さんの引退を契機に店を閉めてしまうケースが多いようだ。例えば、もともとは由緒正しい天ぷら屋さんだったお店を、きれいさっぱり「酒場」にリニューアルしたお店が紹介されていたけれど、本を読んで訪れるだけの観光客予備軍としては、”そんな感じ”でうまく酒場を継承していって欲しいような気もする。
でもまぁ、「酒場」のドラマによれば、偶然のように開店したお店も少なくないから、後継者がいなくて閉店というのも風情があっていいのかもしれない。歴史と伝統といった肩肘張った感じとは無縁なのが、大阪の「酒場」の魅力の1つだとすると無理やり継承されるのもまた違うのだろう。
そういえば、先日、実家に帰省するついでに1泊2日で大阪に立ち寄る形で大阪プチ旅行を楽しんだ。そのプチ旅行で天神橋筋商店街を散歩したのだが、天神橋筋商店街の入口辺り、天満駅前あたりだっただろうか。平日にもかかわらず、駅前の立ち飲み屋が正午あたりからごった返していた。さすが、大阪だと思った。関東の辺りだと正午から開いてる居酒屋自体をそんなに見かけないし、もし、見かけることができたとしても、だいたいごった返してない。大阪はきっと「酒場」天国に違いないと確信した。そんな記憶があるから「大阪 下町酒場列伝」というタイトルに萌えてしまったのは確かだ。
そんなわけで、今度、大阪を訪れるときには、「大阪 下町酒場列伝」を片手に、大阪の酒場を覗きにいきたいような気がする…けど、常連さんがごった返す店内をちらっと眺めて、ちょっと躊躇するんだろうな(汗)そして、なんとか店内に入り込んだとしても常連さんに話しかけられてビクッとしている様が容易に想像できる。やっぱり大阪の「酒場」は遠いような気がする。